セオリー軸だが、ONとは「ひらめき」信じて勝負

引用元:日刊スポーツ
セオリー軸だが、ONとは「ひらめき」信じて勝負

<小谷の指導論 ~ 放浪編13>

昨季まで巨人の投手コーチを務めた小谷正勝氏(75)が哲学を語る不定期連載。

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よく「プロ野球の醍醐味(だいごみ)は何ですか」と聞かれる。半世紀以上携わった身からすれば、投手と打者の力と力、技と技、力と技の勝負は大きな要素の1つだ。

ヤクルトで投手コーチを務めていたころは「巨人の松井秀喜をどう抑えるか」が最大のテーマだった。

野村監督が、抑えの高津臣吾(現ヤクルト監督)に「インハイに投げろ」と指示して、ガツンとホームランを打たれたことがある。1球の積み重ねで攻めていく細部までは記憶が鮮明ではなく、ここでは控える。ただ、のちに松井に、高津と対戦する時はどんなことを考えていたのかを聞くと「遅い球、シンカーの抜き球しか狙っていませんでした」と答えたことは、鮮明に覚えている。

ウイニングショットを仕留めて、ホームランを狙う。裏を返せば、狙いと違っても反応でスタンドまで運べる自信がある。歴史に名を残すようなスラッガーは、こんな思考に至るのだと自分なりに解釈した。

どうやって真の強打者と対していたのか思い返してみた。王貞治さんと長嶋茂雄さん。いわゆる「ON」と現役時代が重なっていた。分類するに自分はカーブピッチャーで、持ち球は直球とカーブ。たまにシュートを投げていた。シュートはカウント球では使わず、左打者の外角、長打の少ないところを目がけて投げた。

王さんは「野手の上を越えればホームランになる」との考え方だったと伝え聞いた。当たればほとんどがライナーでフェンス際だった。極端に右に寄る王シフトを敷かれても、流しにいったのは見たことがない。

大きな特徴として「自分のストライクゾーン」を持っていた。2ストライクまでは自分が打てるところ、つまりホームランになるボールしか振らない。2ストライクまではアウトコースで取れるが、そこからが難しかった。

1発だけは避けなくてはいけない。当然、追い込んでからも攻め方は外角中心になる。ただ、なかなかストライクゾーンに投げられない。48度の対戦で本塁打は2本、5敬遠を含む24四球。年俸も力も向こうが上で「打たれて当たり前」と気持ちでは攻めていても、半分は歩かせていた。

リスクを回避して、打線の中で3アウトを取るある種の割り切りがあった。そうは言っても、逃げてばかりではいられない。ある時、マウンド上での「ひらめき」を信じ、追い込んだ後にアンダースローのくそ握り(わしづかみ)で投げた。びっくりしたのかもしれない…空振り三振を取ったことがある。

強打者でも、長嶋さんはタイプが違った。王さんと同じようにアウトコース、自分の一番いい球で攻めるが大原則だったが、打席の中で何を考えておられるか分からなかった。セオリーを軸に、醸し出す雰囲気から狙いを読み取り、ひらめきで勝負した。(つづく)