プロはまず長所を伸ばすこと/上原浩治氏の投球論3

引用元:日刊スポーツ
プロはまず長所を伸ばすこと/上原浩治氏の投球論3

<深掘り。>

#STAYHOMEの野球ファンへ-。日刊スポーツ評論家の上原浩治氏(45)のピッチング論最終回は「長所を伸ばす」考え方。弱点を直そうとしすぎず、まずは武器をいかに生かすか-。

【写真】広島森下暢仁

投手の見方から、今年活躍すると予想する新外国人投手まで、ベテラン遊軍・小島信行記者に明かしました。

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小島記者 上原さんの「投手論」を、ここまで2回(5月8、9日付紙面)にわたって「深掘り」していただきました。最終回は、その総決算です。もっと“深い”話をお願いします。

上原 あれじゃ「浅い」ってこと?(笑い)一生懸命話したんだけどなぁ。

小島 いやいや、そんなことはないです! ここまでのお話をまとめると、<1>投手は気持ちが大事<2>スピードガン表示より、実際に打者が速いと感じるスピード感<3>制球力アップに必要なのは、下半身強化と投げ込み、ってとこですよね。大ざっぱにまとめると、一般的な印象になるじゃないですか? なので、今回はもっとインパクトのある話を聞かせてください。

上原 難しいなぁ。例えばどういう話?

小島 そうですねぇ。上原さんは、新外国人投手が活躍するか、しないかをシーズン前に当てるじゃないですか? 投手の良しあしって、どこで判断しているんですか?

上原 うーん、総合的なバランスで判断することかなぁ。皆さん、ルーキーとかを見る場合、ブルペンの投球を見て判断しますよね。ブルペンだけで判断しなければいけないなら仕方ありませんが、やっぱり打者を相手にした投球を見てからじゃないと分からない。新外国人がどうなのかって当てられるのも、メジャーで投げていたのを覚えているからなんですよ。

小島 話はそれますが、今年の新外国人投手では、誰がいいですか?

上原 ソフトバンクに行ったムーア。彼がいい時は、エースか2番手ぐらいで先発できる能力がある。手術明け(19年に右膝半月板を手術)だから来日したんでしょうけど、本来なら日本で投げるような投手じゃないですよ。投げ方もオーソドックスで球の角度もあるし、コントロールもいい。体さえ持てば、かなりやるんじゃないですか。

小島 期待しましょう。それでは話を戻します。先ほどの総合的なバランスを具体的に教えてください。

上原 例えば、一般的に最初に見るのは、どういう真っすぐを投げるのか、ですよね? でも同じ真っすぐでも「高低」や「内外角」によって、違いがあります。そりゃ、どこに投げてもいいのが理想ですが、高めはいいけど低めの球が垂れるとか、内角に投げる球はいいけど、クロスになる外角の球はシュート回転していまいちというパターンが結構いるんです。足りない部分を補えるものを持っているかが重要なんです。

小島 先日、広島のルーキー森下を解体新書(5月1日付紙面)で分析したときも「高めの球はいいけど、低めが垂れる。でも縦の大きく割れるカーブがあるからこれでもいい」と言ってましたよね。

上原 そうそう。高めの真っすぐに威力があっても、それだけじゃいいバッターは見極めてくる。そこに、あの縦のカーブがあれば見極めにくくなってボール球でも振ってくれる。あと落差はないけど、真っすぐと同じように腕を振って投げられるチェンジアップもいい。バッターは威力のある高めの真っすぐと縦のカーブで目線は上になるでしょ? 意識が高めにあるから、あんまり低めだと振ってくれないと思うけど、ここでチェンジアップが効いてくる。あんまり落ちないから、キャッチャーはサインを出すのが怖いかもしれないけど、あのチェンジアップは使えると思う。解体新書をやるときも、日刊スポーツは連続写真しか用意してくれなかったけど、自分でいろんな映像を見て研究したんですよ。

小島 準備不足で申し訳ありません(苦笑い)。ブルペンでよく見えても、実戦のマウンドで変わっちゃう投手は、プロでも多いですよね。左投手でも左打者の内角を突けないタイプはすごく多い。「ブルペンエース」って言葉があるのも、そういう投手が多いからなんでしょうね。

上原 投球で大事なのは「気持ち」って言ったけど、打者が立って(投球が)悪くなるのはそこが弱いから。「ぶつけちゃいけない」と思うと内角を突けないし、「打たれたらどうしよう」と思うと、びびって腕が振れなくなる。その大事な部分が、ブルペンだと分からない。だから新人投手を見るのって難しいんですよ。細かく言うと、森下君がどういう経緯であの変化球を投げらるようになったかも、大事なんです。

小島 何でですか?

上原 高めの真っすぐが良くて、低めが垂れるという弱点を補う過程で、威力のある高め真っすぐを生かすために縦のカーブを投げるってなったんだと思う。長所を伸ばす考え方で、そこにチェンジアップが加わってくる。ダメになるパターンは、低めの真っすぐが垂れるから、そこを直そうとしすぎて、高めの球に威力がなくなってしまうこと。彼は少し反っくり返り気味に投げる「担ぎ投げ」でしょ。あの投げ方だと、腕が振り遅れて低めの球が垂れやすい。でもそれを修正すると、真上から投げられなくなって、高めの球に威力がなくなってしまう可能性が出てくる。ドラフト1位でプロに入って来たんだから、そこを直す必要はない。このスタイルで通用しなくなった時に考えればいいんです。

小島 よく上原さんが「ピッチャーは好きなように投げたらいい」って言うのは、そういうことなんですね。

上原 あくまでも最初は、長所を伸ばすようにプラスアルファを考える、でいいと思う。俺なんてプロに入った時は「高速スライダー」が武器って紹介されてた(笑い)。でも真っすぐのキレを伸ばすことを考えていく中で、スライダーはどんどん曲がらなくなった。それで、プロ入り後に覚えたフォークが良くなっていった。

小島 テークバックが小さくて速いから、ひねって投げる変化球は良くなりませんでしたね(笑い)。

上原 おい! でもいいカーブを投げるピッチャーって、リリースが後ろ気味になる。真っすぐでも後ろから押し出すような感じ。僕はリリースを前にして「切る」ようにして投げていたから、いいカーブやスライダーは投げられなかったですね。

小島 でもフォークは何種類もありましたね。どれぐらいありましたか?

上原 まずストライクを取るフォークと空振りを取るフォーク。落ち方も自分から見て真っすぐに落ちるのと右と左に落ちるやつ。右と真っすぐに落とすのは簡単だけど、左に落とすのが難しかった。右に落とすときは人さし指に力を入れて投げればよかったけど、(左に落とすために)中指に力を入れて投げるのは難しかった。

小島 メジャーに行って握り方を変えましたよね? フォークって「抜いて投げる」んですか?

上原 よくそう言うけど、僕は真っすぐと同じようにボールを挟んだ中指と人さし指の第1関節で「切る」ように投げていました。メジャーに行ってからはボールが滑るから、握りを浅くしてスプリット気味にして投げていました。

小島 漠然と見ていると分かりませんが奥が深いですね。長所を消さず、長所を生かすように考え、追究していくってことですね。

上原 弱点を直すのは、それでダメだった時でいいんじゃないかな。

小島 いいものが見つからない時は?

上原 そうですねぇ、最初は自分がなりたい投手のものまねをすればいい。そこが出発点でいいと思います。

○…上原氏は公式YouTubeチャンネル「上原浩治の雑談魂」で自身の理論や野球の楽しさを配信中。現役時代の秘話など、見どころ満載のコンテンツとなっている。