沢村賞は19年ぶりの該当者なし 先発完投型投手が絶滅危機

引用元:産経新聞

 今年の沢村賞は2000年以来、19年ぶりに該当者なしとなった。シーズンでもっとも活躍した先発完投型の投手を表彰する権威のある賞だが、近年は先発、中継ぎ、抑えの分業制が進み、完投する投手が少なくなっている。選考委員からは、時代背景を理解しながらも「物足りない」と嘆く声が聞かれた。

【表でみる】2001年度以降の沢村賞受賞者

 該当者なしとなったのは1947年の制定以降、5度目となる。沢村賞の選考基準は、15勝▽150奪三振▽10完投▽防御率2・50▽200投球回▽25試合登板▽勝率6割-の7項目。今季は完投数と投球回で基準を満たした選手が1人もいなかった。

 候補には、15勝、188奪三振など4項目をクリアした山口俊(巨人)や15勝、防御率2・46など4項目をクリアした有原航平(日本ハム)らが挙がった。完投数をみると、山口はなし、有原が1で、いずれも決め手に欠けた。規定投球回以上に到達した投手では、大瀬良大地(広島)の6完投が最多。大瀬良のクリア項目は試合数のみで、選考委員会の堀内恒夫委員長は「どうしても足りない。これ以上、沢村賞のレベルを落としたくない」と該当者なしに至った理由を明かした。

 先発完投が当たり前だった時代を生き抜いた選考委員会のメンバーも、現代の野球事情は理解はしている。大洋(現DeNA)のエースとして活躍した平松政次委員は「野球が変わってきた。分業制がなければ、もっと完投していただろう」と指摘する。堀内委員長も「時代によって(沢村賞も)『変わっていかなくてはいけないかな』と感じている」と話す。

 米大リーグでは、先発投手の評価基準の一つに「6回以上を投げ自責点3以内」のQS(クオリティスタート)の達成率が用いられている。

 選考委員会でも200投球回と10完投のクリアが厳しくなっていることを受け、昨年から補足基準に「日本版QS」として「7回以上を投げ自責点3以内」を達成した試合の割合も取り入れている。今季、QS率が高かったのは、大野雄大(中日)の64%、次いで山本由伸(オリックス)の60%。有原は58・3%、山口は46・2%で、堀内委員長は「これを入れて『完投なし』でも良いとなってしまうと、沢村さんの名前に傷をつけてしまう」と考慮に入れることに二の足を踏んだ。

 投手の分業制は米大リーグでは一般的で、日本でも浸透しつつある。ただ、堀内委員長は「米国では非常に良いシステムだが、日本で導入することには抵抗を持っている」と主張する。

 日本の公式戦は143試合。一方、米大リーグは162試合で、シーズンは日本よりも遅く始まり、早く終わる。このため、日本よりも連戦が増える。中4日で先発ローテーションを回す必要があるため、先発は100球をめどに降板する。

 これに対し、日本は中6日でローテーションを回している。堀内委員長は「これは非常におかしいのではないかと考えている」と“虚弱体質”になっている日本の投手に苦言を呈する。

 高校野球でも球数制限が検討されるなど、今後もより一層、分業制が進む傾向にある。元阪急の山田久志委員は「野球界全体がそっち(球数制限)の方に引っ張られて、沢村賞という権威のある賞の成績が少し物足りなくなってしまうのでは」と危惧する。「沢村賞」のあり方に分岐点が訪れている。(運動部 神田さやか)